基礎研究
いくつかの研究グループに分かれ、それぞれが協力しながら基礎研究を行っています。
近年、医学の進歩は目覚ましく、医局単独で最先端の研究を続けることは厳しい状況にあります。
そのため、基礎・臨床を問わず他の講座との共同研究を積極的に行い、国際競争力の強化をはかっています。
また、研究指導者は留学経験者が多く、海外での経験を次世代にうまくフィードバックするよう心掛け、積極的に大学院生にも国内外を問わず学会発表の機会を与えています。
現在、そのようにして卒業した大学院生が留学し帰国後、後進の指導にあたるというサイクルを築きつつあり、現大学院生にも大いに期待するところです。
もちろん、大学院生の研究日やそれを指導する指導医への研究日も割り当てられ、日々の臨床のなかでの研究に対するバランスをとるように努めています。
悪性高熱症に関する基礎研究
悪性高熱症は揮発性吸入麻酔薬や脱分極性筋弛緩薬により誘発される麻酔合併症です。発症頻度は非常に低いですが、発症時に適切に治療がなされないと致命的な状態になります。この疾患は原則として全身麻酔の時にのみ起こるので、全身麻酔の薬剤に曝露する前に素因の有無を知っておくことで予防策を講じることができます。
悪性高熱症は、常染色体顕性遺伝の遺伝形式を取るとされ、リアノジン受容体(RYR1)という特定の遺伝子に変異がある場合に発症リスクが高まることが分かっています。しかし、最新の研究では、RYR1以外にも悪性高熱症に関与する可能性のある遺伝子が存在することが示唆されています。私たちの研究室でも、RYR1の遺伝子解析に加えて、悪性高熱症に関連する未知の原因遺伝子の探索を行っています。
当研究室ではスイスのバーゼル大学麻酔科と協力し、長年にわたり人的交流を通じて国際的な共同研究を推進してきました。このような国際的な連携により、悪性高熱症の解明と予防に向けた研究を進めています。また、これまでの悪性高熱症の遺伝子研究は主に欧米諸国や北米地域で行われてきましたが、アジア地域での研究は十分ではありませんでした。そこで、私たちはアジア地域における悪性高熱症の理解を深め、診断と治療の向上を目指して、台湾国立大学の麻酔科医と共同でアジア悪性高熱症同盟(Asian Malignant Hyperthermia Alliance: AMHA)(https://amha.asia/)を設立しました。AMHAは、日本、台湾、フィリピン、インドネシア、シンガポール、マレーシア、タイ、中国といったアジア各国の協力を得て、悪性高熱症に関する遺伝子検査を促進し、遺伝子変異のデータベースを構築することで、より迅速で正確な診断方法の開発に取り組んでいます。
痛みに関する研究
痛みに関する研究は、ラットやマウスで様々な疼痛モデルを作成し、作成したモデルに鎮痛効果を有する可能性のある薬剤を経口や腹腔内、静脈投与し、その鎮痛効果の有無を行動学的手法や組織学的手法等で確認しています。また、鎮痛効果を認めた場合はantagonist study等を用いて、その効果部位について解明しています。
「痛み」は、がんや糖尿病などの疾患のみならず、治療薬である抗がん剤の副作用として発症することもあり、臨床的に重要な研究分野の1つと考えています。
細胞内小器官の形態変化に関する研究
全身麻酔において静脈麻酔薬、中でもプロポフォールは、世界中で頻用されています。プロポフォールはGABA(γ-aminobutyric acid)受容体に作用し麻酔効果を発揮すると考えられています。しかし、副作用に関して、その詳細な作用機序は未だ不明です。
広島大学神経薬理学教室との共同研究にて、プロポフォールによるプロテインキナーゼC(PKC)細胞内カルシウム動態と細胞内小器官の形態変化、さらに血管痛との関係性を研究しています。
SHSY-5Y細胞に対するプロポフォールのPKCを介した局在変化
臓器保護に関する研究
臓器保護に関する研究は、特に循環器分野において虚血再灌流障害や心筋肥大などの病態解明などを中心に、海外を含む大学内外の研究室と協力のもと幅広い視野で研究を行っています。吸入麻酔薬を含む各種麻酔薬の影響や、その他薬剤の循環機能に与える影響をマウスやラット、細胞モデルを用い検討しています。特に、カリフォルニア大学サンディエゴ校麻酔科とは長年共同研究を行っており、人的交流も盛んです。
遊離単一心筋細胞の低酸素再灌流による生存率比較実験